生きる力を失いかけた人や、近くで彼らを支えている人たちへ、「居場所はある。一人じゃないことを知ってもらいたい」と、寄り添いながら応援してくれる場があります。
医療美容室「けあるーむKAMI結」(かみゆい)を運営する眞子桂子(まなご・けいこ)さんは、訪問美容をはじめ、地域の医療介護やそれらに関する心身のサポートにも幅広く携わり、活動。美容というツールで、さまざまな障害で心の痛みを抱える人が自分らしく幸せに生きられるよう手助けをしています。
<眞子さんの考え方>
● チャレンジへのアプローチ
・反発心やくやしさも原動力に変える。やってやるという気持ちで挑む
● はじめの一歩を踏み出すには
・めぐってきた縁や機会は受け取り、やってみる
● 仕事を続けていくには
・目の前の相手が何を求めているのか観察することが大事
・まずは相手の声に耳を傾ける。相手の気持ちを一度受け止める
・自分の心身に合わせたペース配分を知る
医療美容は、病気や障害によって起こる外見の悩みに対して、医学的、整容的、心理的にケアし、心身をサポートしていくものです。
眞子さんが持っている資格「医療美容師」は、抗がん剤の副作用などによって起こる脱毛に対して、ウィッグやヘアカットなどでケアし、精神的なダメージをやわらげ、笑顔で生活ができるようサポートする仕事です。眞子さんは、がん治療や薄毛・脱毛症などに悩む人をウィッグやヘアスタイリングでサポートするだけでなく、それに伴う健康相談や心のケアも行っています。「見た目コンプレックスの改善によって生きる力を応援する仕事です」と教えてくれました。
その原点を聞いたところ、幼い頃から自身にコンプレックスがあり、自分で髪を切ったりヘアスタイルを工夫して、どうやったらかわいくなるのか研究していたとか。
ただ、今の仕事にたどり着くまでには、人生のさまざまな出来事や紆余曲折があり、さまざまな職種も経験したという苦労人でもありました。
師匠との出会いが人生を変えるきっかけに
眞子さんは学生時代、自ら学費を稼ぎ、家計を補助しながら高校に通っていたそう。そんな暮らしに疲れ、自分に居場所はなく、生きる意味もないと自暴自棄的に過ごしていた頃、ある美容師との出会いがあったといいます。
「あなたいい目をしているわね、美容師やってみない?」とかけてもらった言葉は、眞子さんが人生で初めて「自分を見てくれた、褒めてもらえた」と感じた言葉だったそうです。
眞子さんはその美容師のもとで働くようになりました。しかし厳しい指導に反発心いっぱいの眞子さんは、いつも逃げ出したいと考えていたとか。
ある日、眞子さんは、先生と呼ぶその美容師から美容学校に通うように勧められました。「そこまでお金をかけて苦労して身につけたものは、簡単には捨てられなくなる。だから頑張りなさい」という言葉に背中を押され、お金をためて必死に勉強し、美容師資格を取得。「先生は私のことを考えてくれていると感じた。だから続けられた」といいます。
終末期の美容ケアで~表情がかわった瞬間に得たやりがい
美容師として働いていたある日、終末期を迎えた人が、在宅医療へ移る前に洗髪したいとサロンを訪問。
「その人が求めていることは何かを見極めなさい」という先生の教えで育った眞子さんは、「この人にとってこれが生涯最後の美容機会になるかもしれない」と思ったそう。意識はなくても声がけしながら施術。元気だった頃のヘアスタイルを再現すると、意識がなかった人が笑ったような表情を浮かべたという体験が、今の活動につながっているといいます。
求められるとうれしい。必要とする人がいるから立ち上がれる
「何をやってもダメだね」と言われて育ち、「どうして自分ばかり」と卑屈になりながらも、反発心をエネルギーに走ってきたという眞子さん。「生きにくさを感じる人たちの支えになりたいという思いの背景には、自分の生い立ちや社会への反発心が土台にある」と語ります。
そして「先生やお客さんからかけられた言葉に背中を押され今がある。誰かに認められたり、誰かの役に立てたときの喜びは大きい。必要とされると、よしっ!と立ち上がるパワーになる」といいます。
眞子さんのもとには、病気や老化だけでなく、発達障害やLGBTQなどに悩む人など、いろいろな生きづらさを抱えた人が訪れるといいます。
「誰にとっても、耳を傾けてくれる人、声をかけてくれる人、理解者の存在はとても大事」と語る眞子さん。自身がそうであったように、生きる力を取り戻し、前向きに生きていくには、まわりの人からの声がけや自分を認めてくれる存在が必要だといいます。そして今はそういった人材の育成にも力を入れ始めました。少しでも多くの人が、自分らしく楽しく生きる力を取り戻せるように、これからも活動を続けていきたいそうです。
取材を終えて
「自分らしく生きる」とは、簡単なようでとても難しくもあります。人生山あり谷ありでも折れずに前を向いて突き進んできた眞子さん。「不器用ながらがむしゃらにやってきた」という経験から語られる言葉だから、相手の痛みを受け止めて、やさしく、時には厳しく、力になってくれるんだろうなと感じました。
眞子さんはYouTubeやインターネットラジオなどでも発信しています。ぜひメッセージを聞いてみてください。
取材日:2022年12月9日
小林聡美