関東三大梅林の一つ、約1000本の「越生梅林」で知られる越生町。「越生うちわ」は、同じく町名を冠している、このまちならではの名産品です。
「うちわ工房しまの」は、現在、町内でただ1軒残る、越生うちわの製造販売店。5代にわたって、うちわを作り続けている老舗です。
明治時代、うちわの一大産地だった越生町
越生町でうちわ作りが盛んだったのは、明治時代。山には、うちわの骨となる真竹(マダケ)が豊富なうえ、近隣に畳の産地があり、当時、竹を編む際に使っていたイグサにも恵まれていました。また、骨に貼る紙も、やはり近くの手すき和紙の産地、小川町などから調達できたため、うちわの生産量が増加。明治9年には年間42万本、同44年には240万本を町内で作っていたという記録があります。
越生うちわの特徴は、うちわの下部の骨(肩骨)が柄に垂直に取り付けられている点。その形から「一文字うちわ」と呼ばれ、張りが強く、ピンポイントで強い風が送れるため、特にかまどや七輪で煮炊きしていた時代には重宝されていました。しかし、ガスコンロや扇風機の普及などにより、越生町のうちわ作りは衰退を余儀なくされていったということです。
浮世絵版画からバッグ用、渋うちわまで多彩に
「今はあおぐだけではなく、うちわをインテリアとして使う人も増えていますね」と五代目店主・島野博行さんは時代の変化を話します。
店内の越生うちわには、島野さんのアイデアや工夫が生かされています。「浮世絵版画が好きなので、うちわや夕涼みの場面などが描かれたものを探し、コピーして使っています。自分の考えで作ったうちわをお客さんが気に入って買ってくれると、うれしいですね」
かばんに入れやすい、小ぶりなうちわや、渋柿を発酵させたもの(柿渋)を塗って、強度と防水・防腐効果を高めた「渋うちわ」も手掛けています。「柿渋は時間が経つと、あめ色に変わっていきますが、塗り方によって濃い、薄いが出てしまうので難しいんです。だから面白いんですけどね」と島野さん。店内には、詩人・野口雨情による『越生小唄』の一節を記した、島野さん考案の渋うちわもありました。
うちわ貼り体験で自分だけの1本を
同店では、予約制で「越生うちわ貼り体験」(900円~)を実施しています。参加者は、手拭いの切り抜きや押し花などを選んでオリジナルのうちわを作ることができます。
「出来上がったうちわであおいでみて、『風が違う』『風が強い』と言う方が多いです。皆さん、喜んでくれますし、うちわの良さも分かってもらえます。体験を通して、うちわのファンを作っていきたいですね」
越生うちわを知ってもらいたいと、見学訪問も歓迎とのこと。趣のある店内には、小さな休憩スペースも用意されています。
◆取材を終えて 日ごろから、うちわに使えそうな絵柄を探したり、柿渋の塗り方を追求したり。唯一の越生うちわ店となっても、気負いなく、楽しみながら自身の仕事に取り組んでいる島野さんの姿が印象的でした。 取材日:2021年7月15日 矢崎真弓