JR桶川駅の西口から5分ほど歩くと見えてくる、ガラス張りの建物。ここは、「さいたま文学館」と「桶川市民ホール」からなる複合施設です。
さいたま文学館では、埼玉ゆかりの文学者に関する資料を収集し、さまざまな形で一般公開しています。「対象とする文学者には、埼玉県出身者のほか、県内に住んだことがあったり、埼玉を題材にした作品を書いていたりする人も含めています。現在のところ90人で、初版本や自筆原稿といった資料を17万点以上所蔵しています」と副館長の宮下達也さんが教えてくれました。
これらとは別に、小説家・永井荷風に関する資料を収集家より譲り受け、多数所蔵しているため、研究者などが調べ物をする際に欠かせない場所になっているそうです。
文学者と地域との関わりが分かる「文学展示室」
さいたま文学館には、1階に200人収容の「文学ホール」、1階と地下1階に「文学展示室」、2階に「文学図書室」と「講座室」、3階に「研修室」が備えられていて、市内外から多くの人が訪れます。
「展示室を通して、埼玉にゆかりのある文学者について広く知ってもらうことも、文学館の役割です」と宮下さんは話します。
文学展示室の1階では、県内の地域が舞台となった作品を映像で紹介しています。映像は「県南」「入間」「比企」など地域ごとに分けられているので、自分の住んでいるエリアを選んで見ることもできます。
階段を下り、地下1階の常設展示コーナーへ。このフロアには、小説家・田山花袋(かたい)や武者小路実篤、豊田三郎など19人の文学者の資料が展示されています。自筆原稿のほか、万年筆などの私物も並べられています。
子どもから大人まで利用しやすい「文学図書室」
2階の「文学図書室」は、誰もが無料で利用できます。埼玉ゆかりの文学者の希少な書籍を手に取って読むことができますが、一般の図書館とは異なり、借りることはできません。また、資料を保護するため、利用に際しては、入口で手荷物をロッカーに預け、鉛筆以外の筆記具を持ち込まないといったルールも決められています。
一方で、絵本や児童文学をそろえるなど、子どもも利用しやすい環境づくりにも力を入れています。来室のたびにスタンプがたまる図書室カードもその一つ。スタンプ数により、景品としてメモ帳やカプセルトイ(通称「ガチャ」)が用意されています。大人向けの景品は、文学展示室の無料券です。
さいたま文学館では、子どもを対象にした催しや、文学創作を学べる講座などを定期的に開催。また3階の研修室は、文学に親しんだり、創作したりする市民サークルの活動の場となっています。資料を見るだけではなく、いくつもの利用方法のある文学館です。
◆取材を終えて 7・8月に開かれた展示室での企画展で、埼玉ゆかりのスポーツマンガを取り上げるなど、文学館ではさまざまな工夫をしています。「文学」を縁遠いと感じている人も、一度足を運んでみると新しい発見があるかもしれません。 取材日:2021年8月17日 矢崎真弓