【子育て】「ほめる」より「認める」子育てが自己肯定感を育む

子育て家庭支援センター施設長
村野裕子さん

子育て家庭支援センター施設長
   
村野裕子さん

“ほめる子育て”を誤解しないで

子育てを語るとき、頻繁に言われる「こどもはほめて育てましょう」。そんな言葉にモヤモヤしたことはないでしょうか?
こどもとの毎日、ほめてばかりではいられない。そんなのは当たり前なのに、なんとなく、こどもを叱るのが悪いことのように思えてしまう。特に人前でわが子の悪行を注意するのをためらうこともあるのではないでしょうか。周囲のママやパパはいつも穏やかにこどもと接しているように見えたり、たくさんほめているように見えたり…。

私はかねてからこの「ほめる子育て」推奨の風潮を心配しています。なぜなら、ほめる子育てを頑張るあまり、こどもの言いなりになっている恐れがあるから。
「ほめる=叱ってはいけない」わけではないのだけれど、そう誤解している方が多いように思えます。

そしてほめるポイントについても心配な点が。目に見える結果のみをほめていませんか?
〇〇がじょうずにできた! 決まりを守ることができた! 100点が取れた! かけっこで一番だった!などなど。
何かができるのは素晴らしいことだし、ほめるに値するでしょう。けれど、目に見える結果ばかりをほめられて育ったこどもは、ほめられるために行動し、ほめられないとなにもやらない、なんてことも。
そして何よりも、他人からの評価が自分の価値に直結していると勘違いする恐れがあります。

「ほめる」より「認める」と、自己肯定感が高まる

こんな話をすると、「では、ほめない子育てのほうがいいのか?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。決してそうではありません。ほめ方にポイントがあります。
こどもに適したほめ方は、「ほめる」より「認める」。
多くの人にとって「ほめる」という言葉で連想されるのは、前述した「〇〇がじょうずにできた!」のような、目に見える結果を言葉にして評価することでしょう。
それに対して「認める」は、ありのままの事実を認識すること。そこには「良い」「悪い」の評価はなく、存在そのものを丸ごと受け止めることになるのです。

親ができることは、こどもを「良い」「悪い」と評価することではなく、「私はどんなあなたも愛しているよ」という気持ちでかたわらに寄り添うことだけですよね。
存在そのものを丸ごと受け止める。つまり「あなたは生きているだけでOK!」ということ。
私たち大人も、何かができるから存在価値があるわけではなく、生きているだけでOKなのです。
それを幼いころからこどもに伝えることで、自己肯定感・自己有用感を育むことができます。

目の前で起こった事実を口に出すだけでOK

そのやり方は簡単! 目の前のこどもに注目し、今ここで起きていることを言葉にしてみましょう。

・朝起きてきたら「おはよう。起きてきたね」
・顔を洗ったら「顔洗えたね」
・ご飯を全部食べたら「残さず食べたね」

目の前で起こった事実を口に出すだけですから、そんなに難しいことではないでしょう。
この事実を口に出すことが「いつもあなたを見ているよ」「あなたがやっていることを認めているよ」と、その行動に「いいね」とOKサインを出すことにつながります。
自分に余裕があるときは一緒にgoodサインをつけてもいいですね! そしてその行為がうれしいものなら、ぜひ「ありがとう」の言葉を添えてみてください。
わが子の何をほめたらいいの?なんて思う人も、この認める行為ならできるのではないでしょうか?

こどもがいけないことをしたら

では、いけないことをしたらどうしましょう?
その場合もまずは事実を言葉にします。たとえば「椅子の上に靴で乗っているね」。
そして、自分の言葉で伝えます。「椅子が汚れてしまうから靴で乗るのはいけません」。
続けて、やってほしい行動を示します。「靴を脱いでください」。
もしそれが乗ってはいけない椅子なら「降りてください」。 そして代わりの高い場所をおすすめしたらどうでしょう?

ほめる子育ての呪縛にとらわれたり、こどもの「やりたい」気持ちを尊重する“ふり”で、社会的に見ておかしなことを容認してはいけません。
こどもの行為を受け止めて、何がいけないのかを伝えるためにも、「認める」から始めるやり取りが必要なのです。

「認める」は大人同士の関係でも非常に有効

この「認める」という行為。大人同士の関係でも非常に有効です。
例えば家庭内で、当たり前のようにゴミ出しをしてきたら、パートナーが「ゴミ出してくれたんだね」と声をかけてくれる。 職場で何の気なしに落ちているごみを拾って捨てていたら、同僚に「ゴミ拾ってくれたんだね」と声を掛けられる。

誰も見ていないと思った行為、誰の評価を求めていない行為に対して声がかかる。そこに「ありがとう」の言葉も添えられていたら、うれしい気持ちになりませんか? 
さらに、周囲へのいい影響も生まれます。その会話を聞いていた他者が「あの行為はいいことなんだ」と気付くのです。それはこども大人も一緒です。
家庭内でも職場でも、ぜひこの「認める」を試してみてください!

「ほめる」より「認める」具体例

2歳~3歳くらいは一人でできることが増えてきて、「自分でやる!」と頑張る場面も多くなります。
例えば自分で衣服の着脱ができるようになると、「見て見て! ズボンはけたよ」「自分で靴下やるから!」と、ほめてほしくて大人にアピールしてくることも。そんなときママやパパはどう対応するでしょうか?
初めて自分でズボンをはけたとき、大人もうれしくなりますよね。必要以上に喜んで大いに盛り上がることもあるでしょう。それが悪いことではありませんが、衣服の着脱は生活習慣として、できて当たり前のことになっていきます。大げさにほめたたえすぎると、ほめられないと自分でやらない、なんてことも。
実は、自分で上手にはけないときから、チャレンジする姿勢を認めていくことが大切なのです。
「ズボンをはこうと思って持ってきたのね!」「自分でズボンをはこうとしたね!」「片方の足が入ったね」。そんな風に目で見える事実を認めていく。
実際にはけたときにも「パパの手伝いなしで、自分ではけたね」「お尻ついて座ってはいたからうまくいったんだね」。後ろ前にはいていたり、おかしな着方をしていても、「自分でやろうとした」気持ちや行動に「いいね!」を向けます。
こうした積み重ねは、こどもが自分で行動を起こすことを認めてもらう経験となり、自己肯定感を育むことができますよ。

「認める」こんな風に…

(「認める」…目の前で起こった事実を口に出すだけでOK)
「ズボンをはこうと思って持ってきたのね!」
「自分でズボンをはこうとしたね!」
「片方の足が入ったね」

(はけたとき)
「パパの手伝いなしで、自分ではけたね」
「お尻をついて、座ってはいたからうまくいったんだね」

(おかしなはき方をしていても
自分でやろうとしたこどもの気持ちや行動に対して)

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