【子育て】声を大にして言いたい。身近な大人の言葉が、こどもの未来を創る

子育て家庭支援センター施設長
村野裕子さん

子育て家庭支援センター施設長
   
村野裕子さん

こどもの心を傷つける言葉 こどもの自信を奪う言葉

いつもニコニコ笑顔で朗らか! そんなパパやママになりたいけれど、そうもいかないのが子育ての現実。
何度言ってもやめてくれない、約束は破って当然、ダメだと言われたことを張り切ってやる、すぐに泣くし、騒ぐし、ちっとも言うことを聞いてくれない…。
そんなとき、こどもにどんな言葉をかけていますか?

冷静に対応できるときばかりではなく、ついカッとして強い口調で責めてしまうこともあるでしょう。
「そんな悪い子はあっちに行ってなさい」「あなたなんて嫌い」
そんな心ない言葉をかけてしまうこともあるかもしれません。

もちろん、その言葉の数々がこどもの心を傷つけることは皆さん分かっているでしょう。これらは「言葉の暴力」です。

昔から「罪を憎んで人を憎まず」という言葉もある通り、悪いのはこどもの行動であって、こども自身の人格が悪いわけではないことを念頭に置きましょう。つまり、人格否定をするような言葉をかけないでほしいのです。

こどもにかける言葉の中に、こんなのもあるでしょう。
「どうせあなたにはできないんだから」「また失敗するわよ」「そんなこともできないの?」

これらもこどもの自信ややる気を奪っていく言葉です。おうちでこんな言葉をかけられ続けたこどもが自信を持てないのは当たり前。おうちでの声掛けは、こどもたちが外の世界でどう振る舞うかに大きく影響します。
初めてのことにチャレンジしようと思うか? 難しいと思っても諦めない気持ちを持てるか? お友達に対して優しい気持ちが持てるのか?

ガミガミ怒るのは有効ではない

ではこどもに、どのように伝えるのがいいのでしょう?
「〇〇するのをやめて」と言うよりも、やってほしいことを言葉にする方が有効です。こどもの人格を否定するわけではないので、行動について考えましょう。

例えば、電車の中で騒いでいるとき「うるさい!」と一喝するより「小さい声でお話ししてね」。
ご飯中に立ち歩いていたら「いつも言っているのに何であなたは分からないの?」と言うより「座って食べてね」を繰り返す。

“悪い行動をするこども=悪いこども”ではなく、悪い行動をするこどもは、文字通り悪い行動をしているだけなのです。
私たちはこどもに「怒ったママは鬼のように怖い」と伝えたいわけではなく、悪い行動をやめてほしいだけですよね。そのためには、ガミガミ怒ることは有効ではありません。

こどもの反抗期と「本当にダメなこと」

さてここでもう一つ考えてみましょう。
そもそも、悪い行動ってどんなことでしょうか? 
社会的な決まりに反していることがほとんどだと思うのですが、本当にダメなことってどんなことでしょうね?

私は、命にかかわることが本当にダメなことだと考えています。
車の通る道に飛び出す、命にかかわるような高いところから飛ぶ、自分や他人を傷つける…。そんなときは悠長なことを言っている場合ではなく、声を荒げてでも止める必要があります。
逆を言うなら、それ以外はたいして悪いことではありません。
ママやパパが「本当にダメなこと」を認識していると、こどもたちに反抗期が訪れたときにも慌てることなく対応できます。

こどもにとっての最初の反抗期は2歳ごろにやってきます。いわゆる「イヤイヤ期」ですね。
それまで親の近くで過ごしてきたこどもが、もっと広い世界に目が向き、自分の「やりたい」気持ちを表現するようになってきた証拠です。

この時期に、ママやパパがこどもの気持ちを受け止めて過ごすことで「自分の気持ちを伝えてもいい」「どんな自分も愛してもらえる」という経験を積み、自分が必要な人間だと感じることのできる「自己有用感」が育ちます。

だからと言って何をしても許されるわけではありません。ここで「本当にダメなこと」の認識が生きてくるのです。
こどもが駄々をこねても、イヤイヤ言っても、それはこどもの感情であり、こどもの主張です。
大人はそれを頭ごなしに押さえつけるのではなく、「あなたはそう思うのね」「あなたはそうしたいのね」と受け止め、それが容認できることなら容認し、容認できないことであれば断固拒否するのです。

例えば、買い物に行ったとき。
「今日はお菓子は買いません」と約束をして出かけても、いざお店に行くと魅力的な物がいっぱい。もしここで、こどもが駄々をこねたら、周りの目を気にし、根負けして買ってしまうこともあるかもしれません。
けれど、最初に決めたことは貫いていいのです。
駄々をこねるこどもと大人の勝負。「お菓子は買わない」を貫いて、冷静に「今日は買いません」を繰り返します。
こどもは大人が折れるのを待っているので、大人が折れなければ諦めることができます。

このとき大人は、こどもと同じようにエキサイトしないこと。「いいかげんにしなさい!」「買わないって言ったでしょ!」「なんでいつもそうなのよ!」と怒鳴ることでは解決しません。
力で押さえつけていると、親と子のパワーバランスが変わったとき、どうにも対処できなくなります。

ここは、大人の方が冷静に。淡々とこちらの主張「今日は買いません」を繰り返します。
そしてこどもが我慢できたときに「我慢できたね。ママはうれしいよ」と気持ちを伝える。

自分や他人に危害を加えるような本当にダメなことでなければ、このようにこどもの気持ちを尊重し、なおかつ大人のスタンスも変えない対応が可能です。
そして本当にダメなときは、根比べなどしている場合ではなく、即「ダメです」と止めることができるでしょう。

第1次反抗期のこのような対応が、思春期の本格的な反抗期に役に立つのです。どうにもならないいら立ちや、社会に対する不満などに潰されそうになったとき、自分の気持ちに向き合い、表現し、解決していく。こどもがそんな力を持つための基礎を作りましょう。
私たち、こどもの身近にいる大人の言葉が、こどもの未来を創っていく。そう考えると言葉の一つ一つに大きな責任を感じますね。

もしかすると、この文章を読んで「今までこどもを傷つける言葉をかけてきた」と後悔している方もいるかもしれません。
「傷つける言い方をしてしまった」と思ったら、それは自分の間違いに気付いたという、すばらしいこと。
そんなときは素直にこどもに言いましょう。
「さっきの言い方はママが悪かったわ。本当はこう言いたかったの」。
「パパ、カッとして怖い言い方をして悪かったね。ごめんね」。
そんな風に素直に反省する姿勢は、こどもにとって「失敗したときは、こうしてやり直せばいい」という見本になることでしょう。

今一度考えてみてください。あなたにとって、本当にダメなことはなんですか?

駄々をこねるこどもと大人の勝負

(「今日は、お菓子は買わないよ」 こどもと約束して買い物へ)
こども  お菓子買って!買って!買って!
親    冷静に淡々と「今日は買いません」を繰り返す
     ✖️「いいかげんにしなさい!」 ✖️「買わないって言ったでしょ!」

(こどもが我慢できたら)
親          「我慢できたね。パパ(ママ)はうれしいよ」