【嵐山】自然を愛する心を育む オオムラサキの森・蝶の里・ホタルの里

オオムラサキは、成虫のオスの羽に美しい紫色の模様が現れる大型のチョウです。6月下旬から7月末にかけて羽化し、8月中旬まで成虫が飛ぶ姿を見ることができます。比企郡嵐山町にある「オオムラサキの森・蝶の里・ホタルの里」は、オオムラサキをはじめ、生き物が暮らす豊かな環境を守るため、嵐山町が整備し管理している森です。

木立の中にあるオオムラサキの森活動センター
オオムラサキの森活動センター

森の中の保護活動の拠点「オオムラサキの森活動センター」で、管理人の1人である植田治(うえだ・おさむ)さんに、オオムラサキの生態や、保護活動について伺いました。

日本の国蝶オオムラサキの生態を知ろう

羽を広げるオオムラサキのオスの成虫
羽を広げるオオムラサキのオスの成虫(2022年6月植田さん撮影)

オオムラサキの幼虫はエノキ類の葉だけを食べ、脱皮を繰り返して成長します。エノキは雑木林によく見られる樹木です。昔は、埼玉県全域でオオムラサキを観察できましたが、今では比企丘陵や奥秩父の山地帯が中心。埼玉県では絶滅危惧Ⅱ類指定(2018年版レッドデータブック)、環境庁では準絶滅危惧指定となっています。オオムラサキの森・蝶の里・ホタルの里での昆虫・植物等の採集・採取は禁止されています。

「オオムラサキの森では、“嵐山モウモウ緑の少年団”が調査回収したオオムラサキの越冬幼虫を保護し、4月にエノキに戻してネットをかけ、観察しています」と植田さん。

取材日(2022年7月8日)、エノキの枝にかけられたネットの中で、1匹の幼虫が元気に動いていました。他のネットでは、葉の裏にサナギを1匹確認できました。今年は例年に比べ、成虫になれたのは少なかったそうです。

「保護した幼虫がすべて成虫になれるわけではありません。虫かごの中で飼育しているわけではないですし、人間が手助けできない部分が大きい。ネットをかけていても、他の生き物に傷つけられてしまったり、病気になってしまったりするケースもあります。幼虫は自分の力で変態(幼生から成体になる過程で形態を変えること)しなければならないですし、わたしたちができるのは、見守ること。毎日ドキドキしながら、観察しています」

サナギになる時は、葉の裏で糸をはき、地面に頭を向け、腹部にある突起を糸にひっかけてぶら下がります。そこで最後の脱皮が行われ、サナギに変化。約15日かけて成虫になる準備をします。

エノキの葉が2枚あるように見えますが、右はオオムラサキのサナギです

「2分ほどかけてサナギから羽化しますが、大きな羽が丸まった状態です。すぐに体を180度回転させて頭を上向きにし、10分ほどかけて羽を伸ばします。飛べるようになるまで、およそ2時間。ここまで命がけで成長してきたのに、羽化も大変。他の昆虫にも言えることですが、成虫になれるのは、ほんのわずかなんです」

成虫は樹液を吸うため、クヌギやコナラの木の周辺に現れるようになります。優雅に飛ぶ姿が見られるのは、真夏の短い間だけなのです。

手を加えずに見守る 自然そのものを残すために

オオムラサキの森には、オオムラサキ以外にもさまざまな生き物がやって来ます。チョウだけでも、70種以上です。

「年々、チョウの種類は増えています。森に飛来しやすいよう、チョウが好む植物を植えるなど工夫はしていますが、昔は埼玉にいなかった種類も見かけますね」

オオムラサキの森・蝶の里・ホタルの里では、自然そのものの姿を後世に残していくことを目指しています。森の中の道も、草刈りをして切り開くのみ。極力、手を加えないようにして保護活動をしています。
森を守り豊かにする活動を、町を挙げて行っている嵐山町。小学校では、オオムラサキの保護に取り組んでいます。また、「嵐山モウモウ緑の少年団」は、オオムラサキの越冬幼虫調査、オオムラサキ・ミドリシジミ・ホタルの観察会、水質検査、里山を丸ごと使っての森の環境整備などを行っています。

「森と人間との共存、も大切です。互いにストレスになってしまわないよう、自然が人々の生活に溶け込む工夫をしています。例えば、地表面に光が当たらないほど樹木が生い茂っている場合は、間伐(萌芽更新=切り株や根から出る新しい芽を利用して森林を若返らせること)して調整。間伐した木材から丸太を切り出し、生き物たちのすみかになるよう森の中に置いておきます」

森で見かけたヤマトタマムシとルリボシカミキリ。どちらも色鮮やか
森で見かけたヤマトタマムシ(左)とルリボシカミキリ

「今飛んできましたよ!」と、珍しい昆虫を見かけると笑顔になる植田さん。夏はチョウ以外にもホタルやトンボが飛び交い、森を訪れるにはぴったりのシーズンです。

「森の中は涼しく、近くには川があり、オオムラサキなどの生き物を探しながら、自然に触れ合えますよ。長袖、長ズボン、靴(長靴)を着用して来てくださいね」

◆取材を終えて

オオムラサキの森活動センターには、標本やオオムラサキの成長模型の他、実際に成長できなかった幼虫やサナギも見ることができます。「自然のありのままを知ってほしい」という植田さんたちの思いが伝わってきました。

取材日:2022年7月8日
塚大あいみ