小鹿野町にある飲食店「バイク弁当」は、バイクの燃料タンク型弁当が食べられる人気食堂です。「2014年9月のオープン当初は、秩父市大滝の店舗で販売していました」と、ご主人の横田充洋(よこた・みつひろ)さん。「バイクの燃料タンク型弁当があったら面白いのにね」。そんな給食会社の社員たちとの世間話がきっかけだったそうです。
一度きりの人生だから好きな仕事に集中しようと決意!
オープンしてから2~3年は、親から引き継いだ給食会社の仕事をこなしつつ、同店を経営していたため、春から夏までは店舗を完全に休業し、そのほかの季節は週末だけ営業する状態が続いていたそうです。ところが、ある事故により横田さんの価値観は大きく変わったといいます。
「車に妻を乗せ移動していた最中に、センターラインをオーバーしてきた車に追突されたのです」と横田さん。横田さんの車は反対車線に弾き飛ばされましたが、2人とも奇跡的に後遺症が残るようなケガはなかったといいます。しかしこの事故をきっかけに、あのとき死んでいたらと考えるようになったそうです。
「自分は給食会社の社長をやっているが、個人ではなにも新しいものをつくりだせていないじゃないか」と気がつき、「そんな自分に、どうしても納得ができなかった」と横田さんは熱く語ります。一度きりの人生なら自分の好きな仕事に集中し、勝負してみようと決意したのだそうです。
信念が実り大手メーカーとのコラボ商品を発表!
弁当の中身はジューシーな豚唐揚弁当のみですが、アイデアのつまった容器に人気が集まります。バイク用品メーカーのモリワキとコラボした「モリワキレーシング応援弁当」のほか、今までにコラボしてきたのは『仮面ライダー』や『ばくおん!!』など。最近では漫画の『湘南爆走族』とも。
コラボ弁当のアイデアは、ユーザー目線で考案しています。これなら絶対欲しくなるだろうというものを考えるそうです。「でも実は、自分が好きな商品も多いんですよ」と、少年のような笑顔で語る横田さん。
許可をとるときは、協力者による紹介や直接交渉をおこなっているそうです。コラボ先は大手の映画会社やメーカーであるため、「交渉するときはいつも、ダメかもしれないな」というネガティブな気持ちにもなるといいます。
しかし、交渉してみなければ先には進めず、話だけでも聞いてもらおうという気持ちで向かうそうです。契約期間はメーカーによって違いますが、1年単位での契約が多いとのこと。「ダメなら自分が落ち込めばいいだけの話です」と横田さん。前向きな考え方やアイデアに賛同した多くのメーカーが協力し、コラボ商品がつくられているのです。「お客様が食べ終えたタンク型の容器を、うれしそうに持ち帰る姿をみていると、次なる挑戦への活力になります」と笑顔で話してくれました。
少しでも多くの笑顔が見たくて小鹿野町へ移転
さまざまなアイデアでコラボ弁当の販売をしていましたが、「コロナの影響により大滝の店舗では、お客様の座席確保が難しくなってしまった」といいます。アクリル板で仕切り間引きした席では、来店者を長時間待たせることになります。
「通常で3時間待ち、長い時で4時間待ちになってしまうため、遠方から足を伸ばし来店してくれるお客様を待たせるのは心苦しかった」と横田さん。もっと大きな場所へ移動し、多くの方が楽しめる店舗にしたいと考え、小鹿野町へ移転しました。
店舗隣接のホールにはバイク部品メーカー「ヨシムラジャパン」や「モリワキエンジニアリング」、埼玉県内に本社を持つチェーンメーカー「アールケー・ジャパン」、ヘルメットメーカー「アライヘルメット」のコーナーがあります。「多くの方々の協力があり、設置することができました。お弁当を食べたあとに、ゆっくり見学していただけるとうれしい」と横田さん。
また、ヨシムラの原点である吉村秀雄(よしむら・ひでお)さんの生涯を伝える「伝承・POP吉村メモリアルコーナー」や、2021年世界耐久選手権でチャンピオンを獲得した「ヨシムラSERTMotul」のレーシングマシンなど、同店でしか見られない貴重な展示物も見られます。みんなの笑顔が見られるように、これからも挑戦し続けるといいます。またコラボ弁当や店舗イベントを通じて、バイク業界を盛り上げ貢献し続けたいと考えているそうです。
◆取材を終えて 弁当の容器は、自宅に持ち帰ることができます。小物入れや改造してティッシュケースにする方も多いそうです。取材時、横田さんが思い描くアイデアや行動力がすごいと感じました。しかし、一番心に残ったのは「一度きりの人生だから後悔しないように、心から好きだと思える仕事がしたかった」という言葉です。 取材日:2022年10月24日 田部井斗江