働きやすい職場づくりを実践「プラチナ認定企業」
埼玉県では、仕事と家庭の両立を支援するため、多様な働き方実践企業の認定制度を設けています。
彩ニュースでは、3区分された認定ランクの中で最高位の「プラチナ認定企業」を取材し紹介します。
今回紹介する「有限会社さつきケアサービス」は、短期間のうちに働き方や職場づくりにかかわる、県の認定・認証を複数受けています。行田市にある本社・施設を訪ね、お話を聞きました。
♯08 有限会社さつきケアサービス
創業:2004年
事業内容 : 介護付有料老人ホーム「さつきホーム」の経営
特徴 : 子育てと両立しやすい職場環境、男性職員の育児休業取得推進、シニア世代の活躍支援、職員の意見を反映した制度づくりなど
企業担当者にインタビュー
代表取締役 高橋貴子さん
代表取締役 高橋貴子さん
代表取締役であり、介護付有料老人ホーム「さつきホーム」の施設長でもある高橋貴子さんに、職場づくりへの思いや自身の役割などを伺いました。(以下敬称略)
一番の目標は、ここを“ピカピカに磨き上げること”
――こちらの施設を作られた経緯を教えてください。
高橋 当社と、さつきホームを立ち上げたのは、私の兄です。創業から3年後の2007年に施設の居室数を24部屋から32部屋に増やした際、人手が足りなくなったため、私が経営を手伝い始めたんです。そして、2012年に2代目として代表を引き継ぎました。
――そうだったんですね。ところで御社は、ここ1年くらいの間で「プラチナ認定」のほか「男性育児休業等推進宣言企業」や「埼玉県介護人材採用・育成事業者認証制度(2つ星)」など、県の認定・認証をいくつも受けていらっしゃいます。何かきっかけがあったのですか。
高橋 県の「新型コロナウイルス感染症対策優良施設」の認定を受けたことが、きっかけになったと思います。それまでは、とにかく入居者さんと、そのご家族、そして職員に認められることを最優先に考えていました。いろいろな意味で、さつきホームを“ピカピカに磨き上げたい”と思って走ってきた感じです。目の前の一つ一つをチェックして対応することに手いっぱいで、外部に申請するという考えには至りませんでしたね。
そんな中で、感染症対策優良施設の認定を受け、初めて外部の組織に認めていただけるうれしさを知ったんです。そこから、“認定マニア”になりました(笑)。行政から教えてもらったり、自分で調べたりしてチャレンジしてみたら、クリアできるものが多かったんです。
――「シニア活躍宣言企業」もその一つですね。
高橋 当社は65歳定年制だったのですが、職員に「70歳まで延ばしたらどう?」と聞いてみたところ、「働きたい!」という声が多かったので延長を決めました。話し合いから実行まで短時間でできるのが、うちのような小さな会社の強みだと思います。定年退職後、パートスタッフとして働いてくださっている70代の方もいますね。
――もともとこちらには長く働いている方が多いそうですね。
高橋 はい、定着率は高いです。17人の介護職員のうち15人が正職員で、安定して働けることも理由の一つかなと思います。また当施設は、定められている人員配置基準3:1(入居者3人に対し介護職員1人)を上回る、2:1体制を取っているため、そうではない施設に比べ、職員の業務や気持ちに余裕ができて良いのかもしれませんね。顔なじみの職員が多いほうが入居者さんに安心していただけるので、長く働いてもらえるのはありがたいことだと思っています。
――高橋社長は介護現場にも出ていらっしゃるのですか。
高橋 いえ、介護の仕事は職員たちを信用して任せていて、私は経営や職場づくりに専念しています。入居者さんたちに楽しんでいただくため、ボランティアの方々を招いて歌や踊りなどを披露してもらっているのですが、その窓口の役目は私が積極的に担当しています。私個人の人脈で、沖縄民謡のプロの方に来ていただいたこともあります。ただ、ここ2年くらいはコロナ禍で人を呼ぶことができず、残念です。
――今、取り組んでいることを教えてください。
市橋 今年(2022年)12月に増築し、居室が全50室になる予定です。これを機に職員も増やしますが、事務所にいながら入居者さんの睡眠中の健康状態が分かる装置を導入したり、職員間の連絡用にインカム(無線機)を取り入れたりすることを検討しています。入居者さんの安全性が高まる一方、職員の負担は軽減できますからね。
今、施設の庭に花を植え、きれいに整えています。これには、地域の皆さんに少しでも身近に感じていただき、施設利用への抵抗感をなくしてもらいたいという思いがあるんです。そのためにできることがあれば、何でもやっていこうと思っています。
社員にインタビュー
社長と職員の距離が近く、とてもチームワークの良い職場です
社長と職員の距離が近く、とてもチームワークの良い職場です
介護リーダー 介護福祉士 東條典子さん
介護リーダー 介護福祉士 東條典子さん
介護リーダーを務めている東條典子さんに、入社のきっかけや働きやすさなどを伺いました。
――どうして介護の仕事を選んだのですか。
東條 母が介護職に就いていたことがきっかけです。23歳のころ、私は販売の仕事をしていたのですが、正職員の介護士として働いていた母を見ていて、安定している職業だと感じたので、やってみることにしたんです。できるかどうか分かりませんでしたが、お年寄りと接するのが楽しくて、意外にすんなり仕事が身に付きました。その後、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などで働きました。
――こちらで働き始めたきっかけと仕事の内容を教えてください。
東條 結婚・出産で介護職から離れていたのですが、子どもが小学5年生になったのを機に正職員で働きたいと思い、介護の仕事を探しました。さつきホームには友人のおばあちゃんが入居していて、「雰囲気がいいよ」と聞いていたんです。見学させてもらったら、実際、職員の対応が丁寧でしたし、入居者さんへのケアも行き届いている感じがして、ここで働きたいと思いました。ちょうど求人中だったので、入社することができました。
私の主な仕事は、入居者さんの入浴や排泄、食事など日常生活の介助です。入社当初、ブランクがありましたが、先輩がマンツーマンで仕事を教えてくれたので助かりましたね。今もこの方法で新人教育を行っていて、私は教える立場になっています。最近入社した2人の職員からは「これまで、こんなに丁寧に仕事を教えてくれるところはなかった」と言ってもらえました。
職員の提案で決まった“アニバーサリー休暇”
――どんなところに、職場としての良さを感じますか。
東條 社長が職員を気にかけ、モチベーションが上がるように考えてくれています。私たちの意見もよく聞いてくださいますね。以前、職員で話し合い、社長に「勤続10年を迎えた人は10連休を取れるようにしたい」という提案をしたら、「それはいいね」とすぐOKしてもらえました。現在、“10thアニバーサリー”の名称で定着していて、勤続8年の人は、今から楽しみにしているようです(笑)。
入居者さんに楽しんでいただこうと、社長が外部からさまざまな人を呼んでくれるのもありがたいですね。最初のきっかけをつくってくれるので、2回目からは職員が直接連絡して来ていただくことができます。これまで、施設内でホタルの鑑賞会やそば打ち会などを開きました。
介護関係の資格取得を目指す人が勉強時間を取れるよう、シフトの調整もしてもらえます。私も入社後に、介護福祉士の資格を取りました。資格があると手当が付きますから、チャレンジする人は多いです。
――社長と職員で良い関係が築けているんですね。職員同士はいかがですか。
東條 長く働いている職員が多いこともあり、協力体制ができているので、子どもの急な発熱などで休む人がいても問題ないですね。子育て中の人だけでなく、家族や自分のことで急に休むことはありますから「お互い様」という感覚です。
職員間の連絡が密で、入居者さんのその日の様子を常に細かく伝え合って、その方に合った一番良い対応やコミュニケーションができるようにしています。それが入居者さんとの信頼関係づくりにもつながっていると思います。こうした積み重ねの中、なかなか心を開いてくださらなかった方から、一言「ありがとう」の言葉をいただいたときはすごくうれしかったです。
――これからの目標を教えてください。
東條 今年(2022年)12月の増築に伴い、今、社長が「見守りシステム」など新しいアイテムの導入を考えてくれています。導入されたら、きちんと活用し、全50室の入居者さんにスムーズに対応できるようにしたいと思っています。新館の2階には、イベントスペースが併設されるので、コロナが収まれば入居者さんに喜んでいただけるようなイベントもいろいろ企画していきたいですね。
●有限会社さつきケアサービス
介護付有料老人ホーム「さつきホーム」
住所 埼玉県行田市荒木2131-3
電話 048-550-7633
取材を通して
2019年10月に発行された、ある雑誌の「安心の老人ホームベスト1100」の企画において、さつきホームは埼玉県内の介護型施設の中で第1位を獲得しています。これは、「ホームの入居率」「看護師・介護職員体制の充実度」「介護職員(常勤者)の退職率」など9項目を基に順位づけられたもの。1位になるのは、簡単なことではないと思います。
社長の高橋さんは、“介護職のプロ”ではないため、基本的に現場は職員に任せ、自分にしかできないことに注力。一方、東條さんは、経験豊富な介護職員として活躍しつつ、リーダーとして、提案や気づきを社長に伝えています。それぞれ役割は違っても社長と職員が常に連携し、信頼し合い、同じ方向を向いて仕事をしているから高い評価を得ることができたのでしょう。
介護職員にとっての“職場”は、入居者にとっての“住まい”です。働きやすい職場づくりは、暮らしやすい住まいづくりに直結しているともいえます。そうした意味でも、介護施設においての職場環境はとても重要だと改めて思いました。
取材日:2022年7月12日
矢崎真弓