「花と人形のまち」として知られる鴻巣市。旧中山道沿いに建つ「鴻巣市産業観光館ひなの里」は、観光案内の拠点であり、古くから行われてきた人形作りの歴史を伝える場でもあります。館内には、一年を通してひな人形が飾られています。
材料や立地に恵まれて人形作りが発展
鴻巣市で人形作りが始まったのは、江戸時代中期。その理由を一般財団法人鴻巣市観光協会の統括業務担当・関口慎吾さんに聞きました。「一つは材料に恵まれていたことです。この一帯に生えていた桐でタンスが製造されていて、その際に出るおがくずを固めて人形の顔を作ることができました。また当時から小麦の生産地だったため、胴体に使うワラも手に入りやすかったんです」。
さらに、人形の着物に使う西陣織を京都から取り寄せたり、出来上がった人形を消費地である江戸に運んだりする、物流の面で旧中山道が大いに役立っていたといいます。
ひなの里には、ひな人形を保存するための蔵が併設されています。「人間国宝が作った人形や日本一大きな人形など貴重なものを保存しています。普段は閉じていますが、『びっくりひな祭り』などのイベント時には期間限定で公開しています」と関口さん。
約1800体の人形が並ぶ、高さ7メートルのひな壇
びっくりひな祭りは、2005年に始まったイベントです。市民の有志が実行委員会を立ち上げてスタートさせ、その後、行政などがかかわるようになったそうです。今年(2022年)は2月18日(金)~3月5日(土)に開催。期間中、ひなの里にある蔵が公開されるほか、「花久の里」「パンジーハウス」「コスモスアリーナふきあげ」など市内のさまざまな場所にひな壇が置かれ、ひな祭りムードを盛り上げます。
イベント名にある「びっくり」の意味は、メイン会場(エルミこうのすショッピングモール)に設置される、ひな壇によるもの。「日本一を誇る」という高さ約7メートル、31段のピラミッド型のひな壇に約1800体の人形が飾られ、例年、多くの来場者を驚かせています。
「当初はもう少し低かったのですが、少しずつ高くなっていきました。強度計算をしたうえで枠組みを作ったり、落下防止のため、上部の人形は衣装の部分をビスで固定したりと安全面に配慮しています」と同観光協会事務局の岩井 啓さんは話します。飾られている人形は、全国から寄せられたもの。人形供養料とともに受け入れ、飾った後、供養しているそうです。(今期は人形募集なし)
ひな壇は、市民のボランティアが中心となって作っています。ショッピングモールの休業日に、多くの人が参加して壇を組み上げ、人形を配置。1日がかりの作業になるとのことです。
「コロナ禍の中、少しでも温かな気持ちになってもらえるようなイベントになればと思っています」と岩井さん。関口さんは「最近、旧中山道はウォーキングのコースとして注目されています。ひなの里はコース途中にあるので、ぜひ立ち寄ってもらいたいです」と話しています。
今回のびっくりひな祭りのテーマは、昨年に引き続き「無病息災を願って」です。
◆取材を終えて 取材時、イベント期間中のみに公開するという蔵を特別に拝見しました。貴重な品々にもかかわらずガラス越しではなく、手を伸ばせば触れられる場所に展示されていたのが印象的でした。聞けば「人形は身近なものだから」とのこと。その言葉に人形作りの本質があるように思いました。 取材日:2022年1月15日 矢崎真弓