日本にはさまざまなルーツを持つたくさんの人が暮らしています。あなたの周りでも身近に接する機会が増えているのではないでしょうか。中には日本語が話せず、意思の疎通が難しい場合もあるでしょう。
「話してみたい、仲良くなりたい」と思っても、コミュニケーションの取り方がわからずためらう人も少なくないのではないでしょうか。
今回は、日本語を母語としない親子や外国にルーツがある親子に、日本語を教えたり、対話の場を作る活動をしているグループを紹介します。その名も「地球っ子クラブ2000」。
さいたま市を中心に活動しており、文化庁「生活者としての外国人」のための日本語教育事業委嘱事業としても登録されています。
日本語指導員として小学校に派遣されたのがきっかけ
同グループを立ち上げたメンバーの一人、髙栁なな枝さんは日本語指導員。さいたま市の教育委員会からある小学校へ派遣され、日本語を母語としない外国ルーツの子どもに日本語を教えたことが活動のきっかけだったそう。
「小学校には1年間の派遣でした。子どもたちがやっと日本語がわかるようになり、これから、というときに任期終了を迎えました。子どもたちにはこれからも支援が必要だと強く感じたのが、グループ設立のきっかけです」
言語支援だけでなく、外国ルーツの親も子も“自分らしくいられる場”が必要と気づく
活動し始めると、言語支援の他にもさまざまな課題が見えてきたそうです。
髙栁さんは、子どもたちが、日本語を話せない母親を恥ずかしく思い「学校に来ないで、外で話さないで」と親に言うケースや、そんな子どもの反応や、思うように自分らしく生活できない環境に自信を無くす母親たちを目にしたといいます。
そこで、彼らが活躍する場を作ることにしたそうです。
「お母さんたちに、自身の母語を紹介してもらったり、教えてもらったりする機会を作りました。親が自信を持って人前で活躍する姿を見た子どもは、親への意識が変わっていくんです。親自身も自信をとり戻し、親子の関係の改善にもつながっています。親子それぞれに自己肯定感が育っていく様子も見られました」
「対話」で解決できることがほとんど
「実は言語がわからなくても、お互いの歩み寄りや対話で何とかなるシーンは多い」という髙栁さん。言語支援の他に、橋渡し的な役割を担うことも多いそうです。
例えば、外国ルーツの親がPTAや学校行事に参加しないことを指摘する声があるそうです。そこには、「言語が十分にわからない自分が行くことで他の参加者に迷惑をかけてしまうかもしれない」という当事者の不安や気遣いがあることも多いといいます。学校から配られるプリントの文章が難しく理解できないケースもあるため、髙栁さんは「もっとわかりやすい日本語でお知らせを作りませんか」と働きかけるそうです。
少しの丁寧な説明や、対話する姿勢があればコミュニケーションはとれるのに、外国人だと言葉がわからないといった固定概念や、自らの忙しさなどから、対話を面倒くさがってしまうケースは多いといいます。
「確かにそれをするには少し時間がかかります。ただ、その先に、全く違うと思っていた外国ルーツの人との共通点を見つけたり、予想外の考え方や刺激に出合えることも少なくありません。これってとても楽しいことですよ。こういった経験がもっと身近でできるようになれば、社会の雰囲気も変わっていくと思うんです」
「してあげよう」より「一緒にしよう」マインドで
そういった機会や場づくりとして、同グループでは、公民館や図書館でのイベントも開催しています。
その一つである「多言語おはなし会」では、外国語の他に、日本の方言、手話も含めて多言語と考えて、さまざまなコミュニケーション手段を体験する機会につなげています。
髙栁さんは、「日本人や支援する側が上、という意識ではなく、同じエリアに住む人同士一緒に楽しもうという姿勢でいたい。みんながそれぞれに持つすてきな部分をもっとのびのびと発揮できる環境を作りたい」と語ってくれました。
◆取材を終えて 少しの工夫と対話で解決できることは多いというお話が印象的で、髙栁さんたちの活動は外国ルーツの親子だけでなく、日本人同士のコミュニケーションでも役立つものだと感じました。自己肯定感を持って、自分にも他の人にもやさしい社会を目指すには、自分の身の周りから、まず一つ行動を起こしてみたいと思いました。 取材日:2022年8月12日 小林聡美