風船と豚ちゃんが人と会社を救う 風船会計メソッド考案(会社役員 松本めぐみ)

口コミで評判が広がり、新しくセミナー日を公開すると一日足らずで埋まってしまう「風船会計メソッド」。経営者や税理士から主婦、学生までもが聴講しています。なぜ評判なのかというと、だれでも、専門知識がなくても、短時間で難しい決算が読み解けるようになるから。使うのは「風船」と「豚の貯金箱」です。風船会計メソッドを編み出した松本めぐみさんを紹介します。(彩ニュース編集部)

魔法みたいな風船会計メソッド
女性でもキャリアを重ねていく生き方に衝撃
半導体のエンジニアとして働くが…
経理や会計はまったくの無知。紆余曲折が始まる
「そのままじゃしあわせになれないぞ」
風船会計は最高のコミュニケーションツール
自分の思いを正しく伝える
受容できる力、それが生き抜く力
まっすぐに、全力で、自分の人生を生きる

Profile 松本めぐみ(まつもと めぐみ)
松本興産㈱取締役、Star Compass㈱代表取締役
国立北九州高等専門学校卒業後、外資系半導体装置メーカーのエンジニアとして5年弱働き、その後スイスに留学しMBAを取得。現在は松本興産(埼玉県秩父市)で取締役として経営、経理、総務、人事を担う。好きな言葉は「ワクワク」。2021年「風船会計メソッド」を考案。2023年より情報経営イノベーション専門職大学の客員教授。3児の母。福岡県出身。

Profile 松本めぐみ(まつもと めぐみ)
松本興産㈱取締役、Star Compass㈱代表取締役
国立北九州高等専門学校卒業後、外資系半導体装置メーカーのエンジニアとして5年弱働き、その後スイスに留学しMBAを取得。現在は松本興産(埼玉県秩父市)で取締役として経営、経理、総務、人事を担う。好きな言葉は「ワクワク」。2021年「風船会計メソッド」を考案。2023年より情報経営イノベーション専門職大学の客員教授。3児の母。福岡県出身。

1 今の仕事のこと

魔法みたいな風船会計メソッド

―― 風船会計メソッド(特許取得。以下「風船会計」)について教えてください。

松本 風船会計では、売上を風船に置き換え、貸借対照表を豚の貯金箱に置き換えて、会計上の数字をイラストやイメージで表します。難しい計算式や専門用語を覚える必要はありません。

会計知識のない人でも、豚の貯金箱と風船を見れば、自分の会社の現状はどうなのか、どこに強みや弱みがあるのか、課題は何かを理解でき、問題点や改善すべき点などが分かります。

――魔法みたいですね。

松本 魔法みたいなのは風船会計ではなくて、みなさんの脳です。

人は数字を把握するとき左脳を使うのですが、その量には限界があります。でも右脳を使うと飛躍的に伸びるといわれています。風船会計はみなさんの右脳にアプローチしていく手法です。

――右脳にアプローチするために、豚の貯金箱と風船というイメージを使うのですね。

松本 そうです。だれでも、たとえばパートで働く主婦や、高校を卒業したばかりの若者でも、数時間のセミナーを受ければ決算書を読み解けるというものを作りたかったんです。

――決算書の高度な分析までできるものを、ということですよね。すごいチャレンジですね。

松本 チャレンジでした。どうやったら分かるものを作れるだろうといろいろ探求していく中で、心理学、脳科学、記憶術や仏教なども学んで風船会計メソッドに落とし込みました。そうしないと人々に、経営の土俵に立ってもらえないと思ったんです。

――経営の土俵に立ってもらいたいと思ったのはなぜですか?

松本 土俵に立つということは、経営者の視点をもつということ。会計が理解できれば経営視点をもつことができます。
社員もパートさんも新卒も、一人ひとりが経営視点をもてれば、それぞれの業務の位置づけや自分の役割が分かり、自発的にアイデアを提案できるようになります。そして、仕事の効率を高めたり、売上増加につなげることもできます。

今年(2023年)5月に出版された松本さんの著書『知識ゼロでも分かる風船会計メソッド』(幻冬舎)と、その中に掲載されている「豚の貯金箱と風船」のイメージ図(※無断で転載することは禁じられています)

女性でもキャリアを重ねていく生き方に衝撃

――どんなお子さんだったのですか?

松本 出身は福岡県北九州市です。人見知りが激しくておとなしい子でした。

――中学校を卒業して、国立の高等専門学校(実践的·創造的技術者を養成する5年制の高等教育機関。以下「高専」)へ進みましたね。

松本 もともと数学や理科が好きだったので、高校の理数科か高専のどちらかに進もうと思いました。高専に行った先輩たちが生き生きしていて、その自由な雰囲気にあこがれて高専に入りました。

――高専のときにカナダに留学もしましたね。何かきっかけがあったのですか?

松本 高専1年生のとき、お正月に北九州市の祖母の家で、当時東京に住んでいた叔母と話す機会がありました。
叔母は英語が話せて、英語塾の講師をしていると聞いて、私は驚いたんですね。私の周りの女性はほとんどが専業主婦でしたから。
叔母のようにキャリアを重ねていくという生き方もあるんだと知って、とても衝撃的でした。
私も英語が話せるようになりたいと思って、留学費用をためるためにアルバイトを始めました。

高専の4年生が終わった時点で1年間休学して、カナダに留学しました。最初は全く英語が理解できませんでしたが、何かを得たいという思いは強かったですね。
初めの半年間は語学学校、残りの半年間は、現地の人も行くビジネススクールへ通いました。

――ビジネススクールは自分で選んだコースですか?

松本 そうです。現地の人に交じって授業を受けたいと思っていたので、無理をして飛び込みました。
でも授業にぜんぜんついていけませんでした。海外では授業で発言しないと周りから「この人、やる気がない」と簡単に見られてしまいます。毎回、何でもいいから手を挙げて発言することを自分に課しました。それが一番大変でしたね。

――カナダでの1年は松本さんにとってどんなものでしたか?

松本 19歳で留学に行って大きく変わったのが、「努力をすればできるんだ」という自信がついたことです。
それまで自分は人より頭の回転が遅いと思っていたんです。だから勉強が好きではありませんでした。
でも留学して1年間がむしゃらに勉強したから、帰国後、英語の点数が飛躍的に伸びたんですね。当たり前なんですけど。
そのときに「今まで私は頭が悪かったわけじゃなくて、努力をしなかっただけなんだ。これだけ努力すれば絶対できるんだ」という自信がついたんです。

――ターニングポイントですね。

松本 そうです。だから高専5年生の1年間は、勉強を頑張りました。卒業研究は半導体をテーマに選びました。

半導体のエンジニアとして働くが…

松本 卒業後は外資系の半導体装置メーカーに入り、半導体のエンジニアとして働きました。
当時は残業当たり前という業界で、男性に負けじと頑張りましたが、女性は体力面で圧倒的に勝てないんですよ。5年弱勤務して、女性の体は、男性と同じ仕事スタイルでやるようにはできていないんだなと痛感しました。

退職し、まず学歴をつけたいと思いました。学歴はずっとついて回るということが社会人になって身に染みていたからです。
次は女性であることがハンデにならないホテル業界に行こうと、ホスピタリティ教育で世界をリードしているスイスの大学へ進みました。MBA(経営学修士)にも挑戦しました。26歳のときです。

――MBAの取得は本当に大変ですよね。結構ハードだったのでは?

松本 本当にハードでした。1年間みっちり勉強し、取得できました。そして帰国後、外資系ホテルで働き始め、夫と出会い、結婚しました。

インタビューにこたえる松本さん

経理や会計はまったくの無知。紆余曲折が始まる

松本 2015年、夫の経営する金属加工メーカーに取締役として入りました。まかされたのは経理部門。ですが、私は経理·会計についてはまったくの無知でした。
会計の資料を見ると、難しい専門用語と、見たことのないような桁の数字がずらっと並んでいて、正直ギョッとしました。

そこから私の紆余(うよ)曲折が始まります。
まずは「勉強期」。あらゆる会計や経営の本を読み、簿記2級をとり、いろいろなセミナーにも出て勉強しました。

5~6年かけてやっと、「決算書を読み解ければ会社の強みや改善点などが見えてくる」ということが分かったのですが、それをほかの社員に伝えても理解してもらえないんですよ。私も最初そうだったので当たり前ですよね。

次が「資料作り期」です。みんなが決算書を読み解けるようになると良いと思い、だれでも見やすいようグラフ化しました。
社員たちは分かったふりをしてくれて、打ち合わせでは「こうしていきましょう」と決まるのですが、その行動を持続させることはできませんでした。

それで次に走ったのが「管理ガチガチ期」です。決まったことを持続できるよう、きびしくみんなの行動を管理するようになりました。

それでどうなったかというと、みんなから嫌われました。周りから人がいなくなりました。
うるさがられているのは分かっているけど、私もなんとか業績を上げなきゃと必死でした。

今振り返ってみると、当時の私の行動は、すべて私の中にある“恐れ”から始まっているんですよね。結果を出せなかったら取締役として失格と思われるんじゃないか、社長夫人としてちゃんとできているだろうか、と、全部恐れなんですよ。
恐れを克服したいから、みんなを管理したい。「それじゃみんな逃げていくわ」って今なら分かりますが、当時は未熟で分からなかったんです。

「そのままじゃしあわせになれないぞ」

松本 そうこうしているうちに3人目を出産し、職場に復帰したんですね。
あるとき仕事をしていたら、どこからか聞こえたんですよ、「おまえ、そのままじゃしあわせになれないぞ」っていう声が。

そのとき、はっと気づいたんですね。「たしかに必死にやっているけど、私しあわせになっていないし、こういう管理の仕方をしていたら、社員も社長もしあわせになれない」と。

――心の声が聞こえたのですね?

松本 そうなんです。
それまでしあわせについてなんて、あまり考えていなかったんです。カナダ留学で「努力をすればなんだってできる」と実感して以来、“とにかく頑張る”という人生を私は生きてきたんです。でもそのやり方じゃだめなんだと思いました。

――このときが大きなターニングポイントだったんですね。

松本 そうなんです。そこから私の探求が始まりました。
探求する際に立てた二つの目標が、①利益を出すこと、②経営者だけでなく、社員全員がしあわせになれるメソッドを見つけること、でした。

どの企業でもそうだと思いますが、立場や仕事内容によって会社を見る視点が一人ひとり違うので、お互い伝えたいことがなかなか伝わらないということ、ありますよね。いろんな人が、「自分のことを分かってくれない」「相手のことが分からない」と、コミュニケーションで悩み苦しむんですよね。
その悩み苦しみを解決するために、みんなの見ている世界を一致させようと思いました。

考えてみると「会計」は、会社のすべてのコト、モノ、ヒト、情報の集合体なんですね。その集合体を、分かりやすく目視化できれば、みんなですべての情報が見れるから、「見ている世界を一致させることができる」、つまり「相手のことを分かってあげられる環境になる」と考えたんです。

そうしたいきさつがあって、約2年かけて風船会計を編み出しました。

風船会計は最高のコミュニケーションツール

松本 今、実感しているのは、風船会計は「最高のコミュニケーションツール」になるということです。

風船と豚の貯金箱をみれば、会社の借金がいくらあって、1年間にどれだけ返さないといけないかが、誰でも一目で分かります。たとえばカフェを経営していて、毎月の返済額が20万円とすると、「風船の中のヘリウムガス(ヘリウムガスは「利益」のたとえ)を20万円分つくらないといけない」という意識に、みんなが自然となるんですよね。

すると「それなら、コーヒー豆を50万円分仕入れる予定でしたが、10万円カットできるようにコーヒー豆屋さんに交渉してみます」とか「こんな風に効率化したらどうでしょうか」というアイデアが、経営サイドではなく現場から出てくるようになるんです。

そうしたアイデアを提案できると本人たちも自信がつく、仕事は自分を表現する場となっていく。経営者も、日ごろからみんなで経営について考えられるから孤独でなくなります。
そういう感じでみんながしあわせになっていけると思うんです。だから、最高のコミュニケーションツールなのです。

わが社では風船会計を導入して社内の縦横の壁がなくなり、離職率(3年以内)が50%から15%に減りました。

――みんなで会社の課題を分かち合えるから、社内の雰囲気が変わったのですね。

松本 そうなんです。風船と豚ちゃんが、経営者と社員をつないでくれたんです。

著書の出版記念パーティーで

2 あなたらしくあるために大切なこと

自分の思いを正しく伝える

――一人ひとりが自分らしく生きていくために何を大切にしたら良いと思いますか?

松本 我慢しないこと。我慢して相手を優先させたり、だれかのために自分を犠牲にしたり、そればかりだと、「なぜ自分だけが…」と思ってしまいますよね。いつか爆発するかもしれません。
周りの人には本当にしあわせになってほしいです。でも、自分を犠牲にしてまで相手のことを優先するというのは違うと私は思います。

だから正しく表現することです。「いやだな」と思うことがあったら、理由を添えて「いやです」ときちんと伝える。それが大事かなと思います。

3 未来を生きる子どもたちへ

受容できる力、それが生き抜く力

――次の世代の子どもたちが生き抜いていくために、どんな力や考え方を持ったら良いと思いますか?

松本 普段から自分の子どもには、「自分の感情を感じ抜くように」と伝えています。
男の子でも悲しいとか怖いとか泣きたいとか、そういう気持ちを大切にしてほしいなと思っているんですね。
胸に手を当てさせて「今、どんな感じ?」とか「ドキドキしてる?」「怖いのかな」「不安なのかな」と、自分の感情を感じ抜くようにうながします。

――それと生き抜く力と、どうつながるんですか?

松本 生き抜く力って、強さじゃないと思うんです。
自分の感情を感じ抜いて、自分を受容する。だから周りのいろんなことも受容できるようになると思うんですよね。

周りを受容したら、調和できるし、変なところにエネルギーを注がずにすみます。エネルギーを最大限に出せるので、結果が出やすいですよね。

受容できる力、それが生き抜く力だと思います。

取材を終えて
まっすぐに、全力で、自分の人生を生きる

明るくて、前向きオーラいっぱいの松本さん。一方で、自分の内面を冷静に見つめ、物事の本質をとらえようとする姿勢がすごいと、取材を通して感じました。

聞いてみると、松本さんが自分の内面に意識が向くようになったのは、風船会計の探求を始めてからで、「人の苦悩やしあわせの真理って何だろう」と考え、いろいろ学んだことから、「自分の人生を生きないとだめなんだ」ということが分かったそうです。

自分の内面と向き合ったら、「いろんな人があるがままでいられて、組織で集まって、コミュニケーションができるからこそ、それぞれが輝ける。風船会計を使って、そういう世界をつくり出すお手伝いがしたい」という情熱が、自分の中にあったそうです。

東京・渋谷でセミナーを開いたり、著書『知識ゼロでも分かる 風船会計メソッド』を出版したのも、だからこそ。以前はそんなキャラではなかったと言います。

松本さんの魅力は、思うことにまっすぐに、ワクワクしながら全力でやり遂げるところではないかと感じます。まさに“自分の人生を生きているひと”です。

取材日:2023年5月15日
綿貫和美